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会社法人代表者住所のこと

こんにちは 今回は、令和6年10月1日に施行する商業法人登記の代表取締役住所非表示措置に関することを記します。

本ブログで記している段階では未施行でありますが よほどのことがない限り変わることがないと思われます

既登記の代表者の住所は?

残念なことですが、既に登記されている代表者の住所は、登記事項証明書および登記情報について、非表示にすることはできないこととなっています。

法務省のwebページでは 制度の概要が冒頭に記されているのですが、そのすぐ後ろに、「注意」の記載があります。

代表者の配慮と取引の安全の均衡

さて代表者住所は、登記事項であり、所定の手数料を支払えば、登記事項証明書または登記情報を誰でも入手可能な情報です。故に新たな取引等で関係に入る際に、登記事項証明書を入手し、相手方の存在はもとより、どの様な会社法人なのか、広義な意味では、これから関わる会社法人(社団)は、どの様な団体なのか?を知ることができ、代表者がどなたなのか、資本金などから与信はどうなのか、掛け取引をするにしても、相手方はどれほどの担保ができるのだろうかなど、単に登記しておけば良いでしょ!、というものではなく、相手方からみれば、逐一真正面から尋ねることもせずに、知ることができます。なんだか情報を与えてばかりに思われがちですが、一方で、代表者以外の人物は、会社法人の代表者ではないと言えます。勇退する役員の挨拶状を送付するという習慣がありますが、なんらかしらの事情で、お辞めになった役員や元代表者のことまで、会社は挨拶状を取引相手に逐一通知していたのでは、円滑な取引が期待できるものではありません。故に、商いをする以上、取引関係に入る前に登記事項を確認することはむしろ当たり前なことだ理解してほしいと感じます。
 さらに留意してほしいこと、例えば、退任した元代表者であった役員が、在籍していた会社を騙って取引したとしても、当該取引よりも前に退任登記をしてあれば、当該会社は、騙された相手方から請求されても、義務を負わないものとなります。この登記申請の義務を怠り放置していると、賠償責任を負わされる可能性もあります。

商業法人登記制度の趣旨

そもそも、なぜ登記制度を設けているのか、ですが、取引関係に入る前に登記されている事項は、知っておかなければいけない。登記することにより、取引の相手方が登記事項を見ている見ていないにかかわらず、見ているものと看做し、物事を進め、取引を円滑に進めるための制度です。商業法人登記制度は、不動産登記のように権利に対する対抗要件を付与するのではなく、取引の相手方に対し、自身の会社法人について登記されている事項を知っているものと看做す(このことを講学的には「悪意擬制」と呼んでいます。この「悪意」は害意ではなく、「ある事実について知っている」の意味です。)法律上の効果があるのです。

住所非表示措置の要件

改めて代表者の住所非表示措置の要件ですが、登記される代表者の住所に関するまたは住所も登記事項となる登記申請の場合で、申請と同時に申出をしなければなりません。登記されてから、非表示にしてくださいはできないのです。

登記される代表者が住所に関するまたは住所についても登記事項となる登記申請の場合

例えば、設立の登記、代表取締役の就任登記、代表者の住所移転による変更の登記の登記申請などです。

所定の書面の添付を要求

申出に際し、書面の添付が必要です。なお上場会会社と上場会社以外の株式会社によって違いますが、ここでは、上場会社以外の株式会社について、記します。

原則3種類の書類が必要です。

  1. 会社が受取人として記載された書面がその本店の所在場所に宛てて配達証明郵便により送付されたことを証する書面
  2. 代表取締役等の氏名及び住所が記載されている市町村長等による証明書(例えば、住民票の写しなど)
  3. 株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面(資格者代理人の法令に基づく確認の結果を記載した書面など)

なお、すでに代表取締役等住所非表示措置が講じられている場合は、2つ目の書類のみの添付で足ります。また会社が一定期間内に、実質的支配者リストの保管の申出をしている場合は、3つ目の添付は不要となります。

非表示措置がされた登記事項

非表示措置が講じられた場合、代表者の住所は、最小行政区画までしか記載されないこととなります。例えば、「千葉県白井市」の記載までに止まります。なお、東京都の特別区はその特別区まで、指定都市は区までの記載となります。

非表示措置が終了することも

措置が講じられた会社法人の登記ですが、措置が終了二つの事象があります。

  1. 措置が講じられた会社から措置を希望しない旨の申出があった場合
  2. 措置が講じられた会社法人が本店所在場所に実在しないことが認められた場合

これらの事象があった場合は、登記官は職権で当該措置を終了させることができます。なお、申し出による場合は、必ずしも登記申請と同時である必要はなく、単独で申し出ることができます。

登記申請の専門家からみた代表者住所非表示制度のこと

本職がみた、この代表者住所非表示の制度ですが、上場企業において、創業者が完全に勇退した事象まで成長企業は、大多数の株主とくに個人投資家はその典型ですが、個々の代表者について希薄な感情しかもっていないこともあること、その本店所在場所について、会社法のみならず金融商品取引法によって、その上場企業である以上、十分担保されると考えます。一方、上場企業ではない会社法人について、その事業に対する姿勢は、代表者・経営者の人となりが担保になり得ます。その代表者の住所を登記によって公示しないことがどう評価されるのか、もはや予測できないこととなります。

また登記とは直接関係ありませんが、金融機関と取引を考えている場合、与信の観点から、代表者の住所を把握する場合もありうるため、登記事項証明書とは別に、会社の印鑑証明書の提出を早々求められることになることが、十分考えられます。そうすると代表者の住所の記載がある登記事項証明書一通を提出するだけ事足りる段階であるにも関わらず、代表者住所非表示の措置をしたために、登記事項証明書のみならず、印鑑証明書の提出も求められることとなります。抵抗感がない方にとっては、それでも良いのかもしれませんが、まだ契約書の記入を求められてもいないのに相手に印鑑印影を手渡すことに抵抗を覚える方にとっては、とっても不快感を覚えると思われます。

登記申請にあたり考えられる対応

まず商業法人登記申請について、設立登記申請では、代表者住所非表示の申出は、依頼があれば対応できないわけではなりませんが、既に代表者住所非表示がされた会社法人の変更登記申請では、本人確認の観点から対応は難しくなるだろうと考えます。先に対応した司法書士事務所に変更登記についても依頼した方がより円滑に対応できると想像できます。もし先の事務所に依頼せず、他の事務所に依頼した場合は、代表者の本人確認のため、会社の印鑑証明書の提出をを求められることとなります。

また不動産登記申請手続に対しては本人確認をすることがより難しくなります。通常の本人確認手続に加え、会社法人の印鑑証明書の提出を求められることが想像されます。

まとめ

以上、令和6年10月1日施行なのでもう少し先のことの様に思われますが、記している段階で半年もない状況です。もしも代表者住所について、非表示にすることをお考えになっているのであれば、熟慮を重ねた上で、申出をするしないを決めていただきたいものです。

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司法書士 大山 真 事務所
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