こんにちは、今回は、職業柄、少し気になることを記します。一般の方にとっては、当事者にならないと臨場感が湧かず、だから何が問題なのですか?と質問がありそうですが、記していこうと思います。
令和8年4月1日以降ですが、氏名若しくは名称又は住所(以下「住所等」と記します。)について変更があった場合、その変更があった旨の登記申請手続が義務化されました。ただ、その義務化とともに、新たな仕組みも設けられました。この仕組みですが、申請義務の負担軽減のため、所有者が変更登記の申請をしなくても、登記官が住基ネット情報を検索し、これに基づいて職権で登記を行う「スマート変更登記」というものです。
「スマート変更登記」、なんだか小洒落た名称ですが、実は、法務局の端末は、住基ネットとつながっており、登記名義人の住所氏名は把握できるようになっています。故に、住所等の変更があった場合、実は申請に基づかなくても、知ることはできる仕組みが現時点で、登記所内に端末が存在しているようです。もっとも法律による施行は令和8年4月1日ですので、運用はまだしておらず、準備段階に入ったということです。
先の投稿でも少し触れましたが、行政庁の中の人間が、その出来心によって悪さをしないか心配ですが、事前抑制として、登記官を始め職務に関わる者に対し、悪さをした際の罰則は不動産登記法に従前から整備されています。もし本当に悪さがあった場合は、事後救済に頼るしかないのだろうと思います。もっともできることは限られるし、国家賠償で訴えても、本当に満足いく勝訴を勝ち取ることは、至難の業であろうことも予想されます。
さて、話を戻し「スマート変更登記」という仕組みですが、住基ネットに登録されている仕組みを活用するに先立ち、氏名または名称および住所のみでは、登記名義人の検索による特定が難しいため、「生年月日」も申出事項となっています。また住所が変わったからといって、すぐに職権による変更登記を実行するのではなく、登記実行前(すなわち事前)に登記名義人の了解を得るため、連絡を円滑にするために、「電子メールアドレス」も申出事項となっています。この事前に登記名義人の了解を得る必要性ですが、いわゆるドメスティックバイオレンス(DV)被害から逃れるため、住所を変えている(もっともこの事象自身についても諸処の論点がありそうですが割愛します)などの事情があって、登記名義人の住所を変えているなどの場合は、登記を実行したことで、居所を加害者に知られてしまう恐れもあるため、そのような事情に配慮する必要があるため、漫然と職権により変更登記を実行することはしない仕組みになっています。
「スマート変更登記」の利点
いろいろと不安なことを記しましたが、従来の住所変更、氏名変更登記申請と比べて、利点を記します。
登録免許税は非課税に
従来の従来の住所変更、氏名変更登記申請では、原則、不動産1個につき金1,000円(執筆時時点)の登録免許税が課されます。もちろん、行政区画の変更等の行政の都合によるものであった場合は、非課税となりますし、そもそも読み替え規定が適用されることもないわけではありませんが、名義人が住所を移転したり、婚姻等で氏名が変わった場合は、原則通りの取り扱いとなっています。
ところが、この「スマート変更登記」の仕組みの上で、職権による住所等の変更登記については、登録免許税は課税されません。
変更登記申請義務から解放される?
登記申請の義務は免れますし、登記申請の懈怠(いわゆる申請し忘れ)もありえないものとなりますが、住所等の変更が生じてから少し時間が経った頃に、法務局から連絡が入りますので、その連絡に対する応答の義務はあります。もっとも申請する手間が省けることを考えれば、利点はあると言えます。
さて、この「スマート変更登記」の仕組みを円滑に行うためには、登記名義人から「検索用情報」の申出をしてもらわなければならないこととなります。
「検索用情報」とは?
この「検索用情報」ですが、住基ネットから登記名義人を正確に検索するため、必要な情報として、「氏名」「氏名の振り仮名」「住所」「生年月日」「電子メールアドレス」がその検索用情報となります。名義人より申出てもらい、その検索用情報ファイル(データベース)に記録されます。
見方を変えると?
こうしてみていると、一見便利そうな制度なのですが、もろ手を挙げて喜んで良いのかどうかは、見方を変えると複雑なものです。なぜなら、住所の移転を別の行政庁(市区町村の役所役場)に届け出たら、他の行政庁に知れ渡るという仕組みが確立されたということです。転出転入転居の届出は義務なので、その義務を怠ると市区町村のサービスは受けることができないので、結果的には強いられるわけですが、それにしても社会保障のみならず、登記制度にまで、その影響が及ぶことを意味しています。
そもそも論として
なぜ、このような制度に行政が舵を切ったのか。私見ですが、それは、不動産という資産の所有が、資産家から庶民に移り、その管理のあり方については、資産家のように振舞ってくれるだろうと、ある意味行政は期待を込めていたわけですが、所有者のみならず登記名義を受けている権利者の多くが実体上、登記事項上変更があったにも関わらず、その変更の登記申請をすることを怠り放置されることが散見されました。話が逸れますが、そのことは所有者や権利者について相続が発生した事案についても散見されるようになり、もはや登記簿上の所有者を探索するにも実体上の住所と違っていたり、相続人に権利が移転したりして、直接的に反映されているのかどうか疑わしい土地の面積だけで、九州一つ分となってしまったという事態に陥りました。
そこで、この登記制度について見直しが図られ、相続による移転の登記申請および住所の変更の登記申請について、義務化される運びとなりました。こうしてみてみると、不動産の登記の申請について怠ってしまったツケが、結局周り巡って行政により管理されてしまう社会が再到来してしまったように感じます。では行政は誠実にこの登記制度について、しっかり向き合っているのかというとそうでもなく、とくに表示の登記については、土地の所有管理する行政監督庁が実体上と登記上についてまたがってしまうため、地目が道路であるにも関わらず、未だに畑となっている事案も散見されます。この事情を実体上管理している行政庁に詰問したら、所有者名義が変わってりゃいいだよ、不動産登記法?! 管理しているのは当庁なのだから関係ないんだ!と暴言を吐かれました。まぁそんなことなので、庶民にだけ守らせることには、無理があるように感じることもあります。もっとも法律は遵守しなければならないことは間違いない事実であり、そのことが一国家行政庁に及ばないという論理は、おかしいと思いますけどね!
結語
ということで、不動産の取得後のお仕事の都合上異動が多く住所移転の変更登記について利便性をとる、登録免許税の免税を考えるのであれば、とってもスマート変更登記は良いものといえますし、かなり前に申出は確かにしたが、歳月が流れ、その申出の事実を忘れてしまった上で、住所を移転した場合、管轄法務局に直接アクセスしていない(申請していない)にも関わらず、忘れた頃に連絡があることを不快に感じるのか? そしてその連絡を不快に感じ、応答しなかった場合は、やはり登記の申請懈怠ということにつながります。制度を利用するにもしないにも留意が必要だと思います。
司法書士 大山 真 事務所
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