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不動産登記申請

権利証(登記済証,登記識別情報)のこと

こんにちは、電話による問い合わせがあり、以前から何回か取り上げているテーマだろうと思っていたのですが、どうやらそうでもなかったようなので、注意喚起を促すために改めて記そうと思います。

権利証は再発行されない

はい、「権利証」と俗世間では、言われていますし、時折、法務局内部職員の方からも、「権利証」という言葉が出てくることもあるのですが、この権利証は、平成15年改正前の不動産登記法に基づき不動産の権利に関する登記で、所有権をはじめ、地役権以外の登記することができる制限物権に対して初めて取得したときに交付されてました。なお現行不動産登記法では「登記識別情報」がいわばその役割を引き継ぎましたが、平成15年改正不動産登記法に基づき当該法務局(登記所)がオンライン庁に実施される前に、交付していた書面としての「登記済証」と言われる書面のことを一般的に指しますが、「登記識別情報」も含めて、広義に「権利証」を指していることもあります。

さて、小見出しに記したように、この「登記識別情報」または「登記済証」は再発行はされません。特に登記済証は、世界で一通しか存在しない書面と言え、希少価値?!?という点では、重要なものと言えるかもしれません。やや話が逸れましたが、この「登記済証」「登記識別情報」は、再発行、再交付、再送付を受けることができない大きな理由は、法令に救済措置に当たる規定が存在しないからです。規定が存在しない以上、たとえ真の登記権利者からの申し出があったとしても、その申し出に答えて再交付・再送付する規定の法令が存在しない以上、登記官が、「気の毒な方ですね。」と内心思っていても、再交付・再送付できないのです。

紛失した経緯にご留意

さて、「登記済証」「登記識別情報」を紛失した、在り処も含めて失念してしまったという理由で、よく問い合わせをいただき、「どうしたら良いですか?」、とよく聞かされますが、その紛失した理由がとっても大事なことだと考えられます。

特に、金庫に入れていたのに、ある日、中身を確認したら何も入ってなかったということもあるようです。もしもその金庫について、施錠や鍵や解錠するためのダイヤルの管理が適切にされていたのなら、盗難の可能性も考えられるので、民事上不利に扱われないために、警察に対し盗難被害届および不動産の管轄法務局に対し不正登記の防止の申し出の手続きを行いましょう。
まず、警察への盗難被害届ですが、刑事上の取り扱いを適切に対応してもらうための制度であり、直接不正登記の防止に寄与するものではありません。しかしながら真の所有権登記名義人が、その盗取された権利証を使われて登記申請がなされたとき、被害を被っている蓋然性を持たせ、後に発生するかもしれない民事上の紛争(窃盗犯に対する賠償、所有権を主張する第三者からの否認し、自己への所有権回復のための証拠の一つとして事実を積み上げるため)への対策を講じるためです。
不正登記の防止の申し出は、真の登記名義人の預かり知らないうちに登記申請がなされることを防止するための制度です。詳細は別の記事に記そうと思います。

耳を疑う事実でした

先日、電話で問い合わせを受けた事案は、様子が違っていました。それは、金庫の鍵は、本人にすぐにわかるように金庫の近くに保管し、ダイヤルの設定も、ご自身が備忘的な意味を込めてメモしたものを金庫に貼り付けておいた、とのことでした。
これでは、確かに金庫としては機能を搭載しているのですが、その機能を全く働かせていない貴重品を入れる保管庫に成り下がっているように思いました。この状況では、さすがに盗難被害届を提出する際に、その経緯を尋ねられ、事実を話したところで、被害が出て当然と叱責されることもあるかもしれません。もっとも「権利証」がなくなった事実は変わらないので、おそらく受理されるのだろうと思います。もちろんこの事案でも、先に記したように、警察への盗難被害届および法務局に不正登記の防止の申出をすることをお勧めします。

高齢社会を迎え

この権利証の紛失のこと、実は取引決済でもよく耳にすることがあります。最近では、親子二代に渡って取引に関与する場合、親御さんの名義に関する不動産の権利証について、紛失しているというケースです。特に高齢者となり、認知機能が低下し、判断能力も衰えてきて、大事なものが常に気になる心配性な方や盗られ妄想の傾向のある方だと、大事なものを確認してはその時々に自分にとってその時点で大事な場所に仕舞ってしまい、後にその仕舞った場所を思い出せなくて、紛失してしまう事案があるようです。またそう言った不都合を解消しようと、親族の方が、介助(と親族の方は思っているようです)して、貴重品を保管していたところ、本人の預かり知らないところで紛失していると誤認し、警察に被害として届け出ていたという事案など、笑えるようで笑えない事実もあるようです。

登記識別情報の失効制度

先の記載は、主に「『登記済証」の紛失」に重視して記しましたが、「登記識別情報」については、もう一つ、対処方法があります。その方法は、登記識別情報の効力を失わせてしまう制度である「登記識別情報の失効制度」です。

ただこの失効制度も、一度失効させると再度の登記識別情報の効力を復活させる制度は、準備されてはいません。事前通知制度や資格者代理人による本人確認制度等の代替手段を用いて、対応する必要があります。

ご留意を

くれぐれも、登記済証、登記識別情報について、紛失、失念することがないようご留意願います。

司法書士 大山 真 事務所
事務所: 千葉縣白井市冨士185番地の21
電話: 047-446-3357
 

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不動産登記申請 事務所より 民事信託・遺言・後見・相続

年度が変わりました

こんにちは、年度が変わりました。まずは、登記申請の際に必要は固定資産の評価額についても切り替わりますので、継続事案については、資料の取り直しが必要になります。

また年度の切り替わりに伴うわけでもありませんが、来年から住所氏名の変更登記申請についても義務化されます。そして相続登記申請の義務化にともなう、過料の制裁の開始があと2年となりました。

住所氏名の変登記申請にしても、相続登記申請にしても、すぐできるから、後で申請しますという気持ちは、持たない方が良いと思います。特に相続は、単独相続でもない限り、他の共同相続人の存在があり、いわば利害関係人の態度如何によって、手続に必要な期間なんて、あっという間に経過してしまいます。

当事務所での、相続登記申請について兄弟姉妹が相続人である事案、相続放棄する事案について ならびに事業所得者が相続人である場合において 当事務所では、積極的に対応致します。

ご依頼に前にお願いですが、単に見積もり金額だけ聞きたい電話による問い合わせがとても多くありますが、対面で、資料を拝見しなければ、確定的な見積金額を提示することもできません。おそらく他所と比べたいからなのでしょうけど それにしても具体的な情報の提供がないにも関わらず、単に金額を教えて欲しいという要望に応えるには、やはり高めな概算見積を出さざるを得ません。ご理解いただきますよう、お願い申し上げます。

不動産の登記に関する相談を賜ります。
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不動産登記申請

住所変更登記申請も義務化

こんにちは、記すほどのことでもないのですが、すでに法令化しており、施行(令和8年4月1日)がまだやってきていないだけであり、そろそろ周知を図らなければならない時期がやってきたのかなと思います。

住所の変更登記申請も義務化されます。確かに、次の所有権移転登記申請まで、住所の変更がなされていない事案が散見されることもあります。もっともこの事案は、問題視はあまりされないと感じます。なぜなら所有者登記名義人が住所変更の登記申請をしなければ、所有権移転登記申請もできないこととなり、必然に変更登記申請をすることとなるからです。

もっとも、所有者のなんらかの事情により、住所移転することはありうることで、相隣関係について、問題になった場合、一番手っ取り早く調査をする方法の一つとして、登記嬢の住所を頼りにするわけですが、その登記上の住所と現住所が違う場合、さらなる調査を強いられることも考えられるため、義務化されたといっても過言ではありません。

住所が違うと、登記官は、どう捉えるのか?

所有権登記名義人からの申請がされた事実を、登記官はどう判断するのか?

それは、氏名(または名称)と住所のみで確認します。すなわち、所有権登記名義人本人からの申請であると確認するために、一部例外を除き、住所と氏名(または名称)を用います。なお、一部の例外とは、共有(または準共有)名義にかかる不動産について、同姓同名の方々が登記する際に、住所、氏名の他に生年月日も登記事項となり得、生年月日も含めて確認する事案が存在しますが、ごくごく一部の例外事由です。

よって、住所が登記された時点の所有権登記名義人がその後住所移転によって変更の事由が生じていても、これまでは登記官にとっては、その事実を知る術はありませんでした。

住所変更登記申請も義務化

もちろん登記業務において、住所が違うにも関わらず、所有権の移転登記申請がなされた場合、取り下げを促され応じるか、却下処分の対象となります。なぜなら所有権登記名義人からの申請がなされたものとは扱わないためです。故に遅くとも所有権移転登記申請の直前に住所変更登記申請をしなければなりません。

登記審査以外の行政の不都合は?

これまで記したことは、あくまで登記審査における観点から、この事象を扱いました。他の行政手続きでの不都合を考えると、先にも記しましたが、実は、土地の収用手続の迅速性の確保、開発行為の促進、相隣関係の不都合の解消に先立ち、相手方の特定を促進させるために、民法の相隣関係に関する規定が見直されました。もっとも相隣関係に関する規定を見直しが図られたところで、相手方を特定できなければ、手続きの迅速性が図られないため、相続による不動産登記申請の義務化が図られるとともに、住所の変更登記申請も義務化されることと相成りました。ただ住所の変更は、現所有権登記名義人は実在する蓋然性が高いので、相続登記申請の義務化よりも事実上後回しになりました。深刻の度合いは、やはり相続による所有者不明の不動産の方が深刻であり喫緊の問題として扱い、登記申請の義務化が先行して図られました。

住所の変更登記申請の義務化と新しい制度

この住所変更登記申請の義務化とともに、いくつか新しい制度も準備されるようです。なお、住所の変更が生じてから2年以内に、その変更登記申請をする必要があることを付言します。

新しい制度は、登記官の職権による住所変更登記も準備されます。ただこの制度は、事前の申し出が必要になるようです。その申し出の制度ですが、住所氏名の変更登記申請の義務化施行よりも前の令和7年4月21日施行となりました。

ただ、あくまで私見ですが、相続登記申請の義務化にしろ、住所氏名の変更登記申請の義務化にしろ、事実上庶民の敗北感が個人的には感じます。不動産について日頃から関心を持っていただき、制度趣旨をご理解いただいて、相続の登記申請にしろ、住所氏名の変更登記申請にしろ、申請が適切になされていれば、制度の義務化はされなかったと思いますし、事実上各行政庁の連携(いわゆる縦割りから横のつながり)の強化が、なされたことによってより、行政の管理監督が厳しくなると感じます。行政の縦割りという言葉ですが、手続きがあまりにも煩雑になりすぎてしまい、申請者から嘆きや苦情を耳にすることがありますが、連携が図られていない以上、それ以上の詮索をされることもなかったはずなのですが、横のつながりが強化される以上、どこかの行政庁で、情報が更新されると、他の行政庁でもそのことが知れてしまうという仕組みが、より強化されることを意味しています。

過料の制裁のこと

また義務化がなされる以上、過料の制裁も整備されますが、詳細なことは、まだ表には出てきていませんが、現時点では、対象となる不動産の数によって、過料の制裁の重みが変わるようです。

以上 住所変更の登記申請の義務化について記してきましたが、詳細なことがわかり次第、事務所ブログでも取り扱っていこうと思います

司法書士 大山 真 事務所
TEL: 047-446-3357
事務所: 〒270-1432 千葉県白井市冨士185番地の21

※2025年3月11日に初稿をポストしましたが、同年同月25日に加筆訂正しました。

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不動産登記申請 民事信託・遺言・後見・相続

債権者から見た相続手続

こんにちは 今回は 被相続人の債権者から相続手続と債権回収のことを見つめてみようと思います

債務者がお亡くなりになった場合 法律上「死亡」を原因として契約が終了することもあれば 権利義務関係を相続します

基本的には 相続するものと考えていただいて問題ありません

死亡によって契約が終了する法律関係について 一応触れておくと 借主が死亡した場合の使用貸借契約、委任者・受任者が死亡した場合の委任契約関係(ただし、義務の履行に準ずる登記申請手続の委任による代理の場合は終了しないこともあります。)などが考えられます

相続とは

あまりにも抽象的な 小見出しを記しましたが 相続とは 被相続人が得た資産や権利も負っている債務の一切を引き継ぐことを言います

もっとも相続の制度を貫徹してしまうと 相続人にとって不測の事態に陥りかねないため 単純承認のみならず相続放棄や限定承認の制度も準備されています

限定承認についての詳細はまた別の機会に記そうと思いますが 端的に言えば 被相続人が遺した資産から負債を差し引いて資産が残れば その残った部分を相続するが何も残らなかった場合もしくは負債が残ってしまった場合は 遺産を引き継がない制度です 難しい論点が実はあるのですが 詳細は別の機会に記したいと思います

さて相続人は承認する(引き継ぐ)のか 放棄するのか の2者択一を迫られるわけですが 債権者としては 相続人に承認しろ!とも 放棄しろ!とも強要することはできません。

もっとも 債権者としては 回収を早くしなければならない事情もあるでしょうから 相続人に対して 被相続人が負っていた債務について請求します

相続登記は相続した証

さて ここで不動産登記のことも考慮してみてみましょう

債権者にとって この不動産登記は 実は貴重な情報源となります

このことは 相続のみならず 債務者の財産状態も 不動産登記制度の反射効的におおよそ把握できる仕組みになっています

債務者が所有する不動産に着目すると まず他の金融機関とどのような権利関係が継続しているのか おおよそ 登記簿をみるとわかります
それから 場合によってですが 所有者が過去に離婚歴があり 元配偶者と法律問題があったことも時折伺えることがあります

では被相続人に対し債権を持っている債権者からみた相続登記はどのように見えるのでしょうか

債権者が債務者の生前中に請求できなかった理由が諸々あるかもしれません この被相続人が所有していた不動産に対し強制執行するにしても 抵当権等の担保権を持っているか 債務名義がなければできません

債務名義を得るにしても債務者において相続が開始すると 債権者としては 債務者のどの相続人に対して請求すべきかの問題はあります 実務上の回収業務として 財産をより多く所有している相続人に対して標的として定めたいところです

そこで相続を原因として登記が完了されていれば 債務者のどの相続人が承認したことが明確になり 債権者は 登記を得た相続人に対し効率よく請求することができます

債務者の相続人にとって 熟慮期間中に、債権者が相続人に請求をしたとしても 相続人が被相続人の債権債務関係が明らかになり 資産を引き継がなくても問題なければ 相続放棄という選択がかなり有意義であることが言えます

一番敏感な相続債権者とは

よくありがちな話ですが 実は債務者の相続について一番敏感な債権者は 固定資産税・都市計画税の租税債権をもっている地方自治体でもあります

地方自治体から納税に関するお尋ねと回答書(雛形)の送付があったことで 初めて自身が相続したことを知ったという事象は多いにしてあります もちろん熟慮期間が始まったばかりですので 資産と負債をよく調べ 承認するのか放棄するのか 意思決定し 承認ならば 納税する登記申請する 放棄をするならば 家庭裁判所に申述を申し立て 受理してもらうことが必要です

付言しますが結果的に承認することとなった場合 それまで留保していた納税義務について 納税が遅延していたことが遡って主張されることもありうるため 留意すべきと考えます

結びに

債権者からみた相続登記は どの相続人を相手にして請求すれば良いのか明確になり 効率よく請求することができます

もっとも 登記を得た相続人にとって まさか被相続人が巨額な債務を負っていた・保証人になっていたという事象は 注意していても 気がつかなかった 錯誤(いわゆる勘違い)に基づいて相続してしまったので取り消したい ということがありうるかもしれません もっとも実情によって認められるのか認められないのか かなり難しい問題だと言え あまり登記を得たのちの相続放棄の申述は困難を極めると考えられます

先の記事にも記しましたが 被相続人の資産を調べるのも一苦労ですが 負っていた債務を調べるのは いわゆるないことの証明をすることと同じであり 限定的に情報機関とお付き合いのある業者に対して負債を負っていないという証明?!?にはなるかもしれませんが 世界中に債権者は存在しないという証明は皆無であるので 本当に難しい問題であると感じます

相続手続の相談を承ります
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会社・法人・企業法務

公開会社の取締役が2名になって考えるべきこと

こんにちは、今回は、公開会社である株式会社において3名の取締役のうち1名が退任したときに、考えるべきことを記したいと思います。

予備知識として、以前記した記事をご覧になっていただけると、より理解が深まると思います。

現行会社法の株式会社の最小機関統治の形態は、株主総会および取締役1名なんですが、旧商法時代から継続している、所謂、老舗の株式会社は、公開会社が基本的な機関統治構成となっています。

そもそも会社とは?

そもそも会社とは、一つの社団、人々によって構成される集団の一つであると定義づけることができます。この社団ですが、会社のみならず、社団法人や財団法人等も、法律が認めた一人の人格として存在していますが、出資者に対して利益を還元することを目的とするのかそうではないのか、この目的によって、会社なのか他の法人が良いのかという議論もあるにはあります。

社会全体の株式会社の実情

実社会上の日本の株式会社の99パーセントが、株式の譲渡による取得に制限を設けている会社、すなわち 「公開会社ではない株式会社」として存在しています。有名な上場企業は1パーセント前後の存在しかなく、実社会の会社の数では、圧倒的に「公開会社ではない株式会社」が占めています。

旧商法時代からとっても歴史のある株式会社の機関構成

もう一度おさらいすると、旧商法時代から存続する老舗な株式会社は、定款の見直しがなければ、公開会社が基本です。その公開会社は、旧商法時代の株式会社は比較的規模が大きいことを想定していたため、設立時の発起人は7名以上(会社成立直後は株主が7名以上)、取締役は3名以上、監査役1名以上、取締役会を構成し、代表取締役1名以上で構成するものでした。そして株式の譲渡による取得は、原則自由としていました。なお、旧商法の時代でも、現在に近づくにつれて、株式の譲渡制限に関する重要性が認識され、法改正が行われ、社会常識の観点から言えば、謂わば、創立当初から出資をした発起人ではなく外からやって、会社の意思決定に口を出して欲しくない要望もあり、株式の譲渡制限を設定することが当然という認識となりました。

やや話題からそれますが、会社の規模を示す資本金の額や負債の総額が一定の基準よりも上回っていれば、監査という役割を強化しなければ、社会に与える影響が大きいため、監査役は会計監査権のみならず、業務監査権が付与されていますし、会計監査人を設置しなければなりません。しかしながら実務社会上の大多数の株式会社は、資本金の額および負債の総額が大きいわけではないので、大抵の株式会社は、監査役が設置されていたとしても、会計監査権のみが付与され、業務監査権は付与されてはいません。このことは、会社が役員を相手に訴訟等の訴えを提起する際に会社の訴訟代表権に関わってきます

代表者からの相談

さて話を戻しますが、公開会社の代表者から、取締役1名が辞任する意向を受け、受理したのですが、問題はありませんか?という質問でした。

2つの選択肢

取締役会の最低構成員数は、取締役が3名以上存在しなければいけないので、最低員数を欠くこととなります。業務執行や大事なことを決議することができない状態となります。そこで採り得る処置は次の2とおりが考えられます。

  1. 辞任した取締役の後任者を選任し、就任してもらう。
  2. 公開会社を「『公開会社ではない株式会社』(株式の譲渡による取得について制限のある会社)で『取締役会設置会社ではない株式会社』」とし、取締役を2名とする定款変更の手続き

後任者の選任および就任

まず一つ目の後任者を選任し、就任してもらった場合です。

業務執行にしっかり関わる後任者が見つかり、株主総会で選任、被選任者が就任すれば、問題は解決します。

その昔、登記簿を見ると取締役の名前がずらりと並んでいることがよく見受けられたのですが、面談を重ねていくと、実のところ業務執行に携わることもなければ、会社に一度も出てきたことがない、名前だけが記されている(名義)取締役が多かれ少なかれ存在している会社が大分ありました。
 旧商法時代は、それでも法令上の最低員数が欠けてしまわないように、経営者のお身内の方が、随分駆り出されていたこともあるようでした。法令や登記上は頭数は揃いますが、態を為していないため、いざ、会社に不祥事があると、名前だけ記されている取締役にも責任が問われることもあったため、実社会と法令上の要請が噛み合っていないことから不都合がありました。

後任者が見つからず、今後は取締役2名以上を基本とする機関構成としたい要望

問題は、2つ目の後任者が見つからなかった場合です。
 本テーマで取り上げている会社は、公開会社でした。公開会社である以上、取締役会設置会社であり、株式の譲渡による取得に制限が設定されていない株式会社でした。

 取締役会を設置するのかどうかは、取締役員数が3名以上でなければいけないことなので、2名では構成することができないことを先にも記しました。故に取締役会設置会社を廃止することを検討しなければなりません。

 株式の譲渡による取得の制限は、潜在的に会社と株主の関わりを表していると言えます。すなわち経営について、外部から株主として関わって欲しくないことが、この規定から感じ取れるものです。株式会社制度の立法政策上の論点を考えてみると、もはや事業規模が、個人事業主の程度とまでは言わずとも、大きくはないことを想定して、現在の会社法は株式会社を構成するものとして捉えているようです。

公開会社である以上取締役会は必須でしたので、株式の譲渡による取得に制限を設けることを検討します。並行して取締役会設置会社の廃止を検討します。

上記は、今回の論点の核になることを記しましたが、登記申請時に納税する登録免許税について考えてみます。
役員変更に関する事項で、小規模な会社であるので金1万円、取締役会設置会社に関する事項で金3万円、および定款変更に伴うその他の事項に該当する事項で、金3万円が必要であることがわかります。最後に取り上げた、その他の変更区分の登録免許税のことですが、案外、変更事項に対して広く設定されており、この時期を利用して、実態に則す様に、定款の他の規定変更も検討します。

株式の譲渡制限および取締役会の廃止以外に変更する事項

今般同時に定款の規定を変更する典型的な事例として、以下に記しました。なお、各事例の詳細な手続きの解説は、また別の記事で扱います。

  • 株式の譲渡制限に関する規定の設定
  • 取締役会設置会社の廃止
  • 株券の発行に関する規定を不発行とする旨の変更
  • 監査役設置会社の廃止
  • その他

その他と記しましたが、登記申請時の登録免許税の納税額を意識した場合、その他の変更区分に該当するものであれば、変更する事項を増加させたからといって、登録免許税が増額するわけではありませんので、一義的に、法令上の手続きに問題が生じなければ、申請することができると言えます。もっとも他の変更する登記事項との均衡を考えないと、全ての手続きがやり直しとなることも考えられるため、慎重に検討する必要があります。

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