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消極遺産と悪魔の証明

こんにちは、先日、同業者と話し合ったことですが、相続財産の調査について、理論的にもっともなことをおっしゃっていることはあるけども、実務上は、かなり難しいと意見交換をしました。

遺産には2種類ある

ところで被相続人が遺した遺産ですが、主に2種類に分けられます。一つは、不動産、預貯金債権、上場企業の株式等の積極遺産があります。昨今では、インターネットで手続きが完結してしまう傾向が強くあり、デジタル遺品としての用語が用いられているようで、そのものについては、見つかりづらいことも考えられますが、相手方と思われる事業者にどうにか連絡をして、探索することができないことはないと、考えらえれます。

極めて見つけづらい遺産

それに対して、被相続人が生前負っていた借金の返済や誰から保証人になっていた場合などの消極遺産ですが、その事実について、遺品にそれなりの証書があれば見つけることはできますが、基本的に契約書は、債権者が大事に所持するものであり、ご家族に知られたくないという心理が働いて生前に廃棄しているとなおのこと、遺りにくいものです。

過去に問い合わせがあった事案ですが、被相続人が生前、割賦払いで購入した商品代金の支払いに関する信販会社の通知明細が遺品にあり、相続放棄の申述で対応したことがありました。また電話による問い合わせのみであり、その後どうされたのかは、存じ上げないことですが、相続人御自身で不動産の相続登記の完了した数週間後、相続債権者から被相続人が負っていた負債に関する請求があったというものでしした。

財産がないことの証は?

積極遺産について、共同相続人間でよくある揉める事案で、時折見かけることですが、抽象的に、「(積極)遺産があるだろ?!」 と 他の共同相続人から執拗に迫られていると、苦言を呈する共同相続人もいらっしゃるようですが、積極遺産であれば、そう主張する共同相続人が財産調査すればよいと一義的には言えます。もっとも遺品の性格を有する動産については、他の共同相続人の占有下にある場合は、むやみに家屋に入って調査することは、刑法上の問題にも触れるため、本当に現存する確証があるのであれば相続回復請求権に基づいて手続きの上で回答をうることが必要でしょう。

一方、消極遺産について、ないことの証を得ることは、困難を極めます。もちろん信用情報を共有する金融機関や貸金業者であれば、その「信用情報を取り扱っている機関」に照会し、回答を得る手段が考えられます。もっとも本当に債務を負っていることが継続中であった場合、当然照会があった旨は金融機関、貸金業者に知れることになるだろうと考えた方が良いと思います。いわば信用情報とは、誰のための情報なのかを想像すれば、その活用の仕方がわかると思います。話を元に戻し、信用情報を取り扱っている機関から、被相続人の存在はなかったことが明らかになったとしても、関連した金融機関や貸金業者には債務がなかったことが判っただけで、金員を貸し付けた個人である債権者や主たる債務者が問題なく弁済し続けているなど現時点では問題が顕在化していない保証人となっていた場合、証書が手元になければ、もはや請求がない限り、相続人にとって与り知らない事実と言えるでしょう。

無いことの証明

ある物事について「ある」という事実を証明することいわゆる立証は、民事訴訟でも問題になりますが、「『ない』ことの証明」は、いわゆる「悪魔の証明」と言われ、どこまで調べても、「全く『ない』」という証明はできないと言わざるを得ません。この世の存在する全ての自然人・法人が被相続人に対して債権を持っていないことの証明は、もはや不可能と言わざるを得ません。

相続手続は、共同相続人の置かれているこれまでの境遇によって対処が違う

こうしてみていると、遺産の有無について、実のところ調査は難しいものです。

では、少し見方を変えて、共同相続人にとって相続について、どう接すれば良いのか、を考えてみたいと思います。

被相続人と同居していた共同相続人の場合

同居していた共同相続人、特に被相続人が所有していた居住用財産で同居していた共同相続人の場合、転居し独立して過ごせるほどの共同相続人の固有財産を所持していれば別ですが、基本的にこれからも住み続けることを前提で、相続手続を考える必要があります。

被相続人と疎遠だった共同相続人の場合

一方、被相続人の素姓がよく判らない疎遠だった共同相続人の場合、被相続人が遺した遺産について、よほど正確な情報が得られていない限り、もしも相続があったことを知ってから3ヶ月間であれば、裁判上の相続放棄の申述をすることを考えた方がよいと思われます。理由は先にも記したとおり、不動産・預貯金債権・上場企業株式等は、なんとか、判明することができると思われますが、消極遺産は、全部を把握することは、同居していた共同相続人でも困難であり、まして疎遠だった場合、先に記した信用情報機関に問い合わせることができますが、それ以上の調査は困難であると言えるからです。

積極遺産ばかりに意識が行きがち

こうしてみていると、とかく積極遺産について、私にも何かもらえるものがあるのではないか?と意識が行きがちですが、消極遺産の存在についても意識をしていただきたいと思います。その上で、相続について承認するのか、放棄するのかは、熟慮期間があります。相続があったことを知ってから3ヶ月内に、家庭裁判所に対して相続の放棄の申述をすれば、積極財産については相続もできませんが、与り知らぬ債務を負うこともない、滞納している税金の徴収や請求も受ける必要もないことも視野に入れてほしいものです。

相続手続の相談を承ります

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相続人申告登記のこと

こんにちは。今回は、相続人申告登記のこと、特に申し出と法務局の対応について記したいと思います。

この登記は、不動産所有権の相続が対象となります。
以降は所有権に限って記します。

権利関係は公示されない

この「相続人申告登記」ですが、所有者が相続人に移ったことを示す登記ではありません。最近の「登記情報」もみてみると「…権利関係を公示するものではない。」と敢えて記されてます。

これに対し、相続を原因とする「所有権移転登記」、「何某持分全部移転」の登記は、権利関係は公示はされますし、他の相続人を除いた第三者に対して、所有権の主張に対し、対抗することができる法律上の効果が生じます。

今日の法務省民事局からWeb上で公表されている情報ですが、相続人申告登記の申し出があった場合、その申し出が相続人によるものかどうかを審査し、相続人からの申し出と判断できれば、事実上ほぼ例外なく、相続人申告登記をする取り扱いとなっています。なお住所の記載についてですが DV等の被害を受けている場合は、その旨も申し出れば、配慮するようです。

申し出があれば登記する

関連条文の記載をよくみると、「登記官は、…登記することができる。」とあるので、あたかも登記官の裁量に基づいて、登記するしないと読めそうですが、他の公開された情報を見てみると、ほぼ例外なく登記をするように読めます。

「申請」ではなく、「申出」という言葉を使ってます

この相続人申告登記は「申請」ではなく、「申出」という言葉を使っています。このことは権利の変動があった、もしくは権利の主体や権利の客体の内容に変動があった場合に、その旨を公示するために、「申請」することとなります。
「相続」があったが、未だ権利関係が確定していない場合、実のところ、相続人以外の第三者からは、相続による権利関係は見えづらいものであり、故に法務局は、相続登記の申請をするよう「催告書」を送付します。
その送付を受けた場合は、登記申請ができない正当な理由があり、その催告に対して回答して、認められれば、過料の制裁を免れることもあります。

相続人申告登記の申出をすべき相続人は?

過料の制裁を確実に免れたければ、相続登記を申請すべきなのですが、遺産の分割について協議が難航し、喫緊には不動産を取得した相続人が確定しないのであれば、このことも登記申請できない正当な理由に該当します。ただ現に相続財産でもある建物に居住されている相続人や土地を利用している相続人が存在するならば、それらの方々は、相続人申告登記の申し出をすることをお勧めします。なぜなら、他の相続人と比較すると、現に実効支配している相続人であるので、登記申請の義務の履行の効果が生じることは、過料の制裁を免れる利点は大きいと考えます。

気をつけなければいけないことは、不動産について相続手続が完結していない以上、申告人として登記はされていても、所有者として登記がされるわけではない上に、登記上相続人を確認したい第三者に対して知らしめる機能を持っており、その不動産について抱える問題について、第三者から問い合わせ等の照会がありうることも甘受しなければいけないことも付言します。

申告のみでは、相続による共有は解消しない

先にも記しましたが、相続人申告登記の申し出をしただけでは、相続によって共有状態は解消してはおらず、遺産の分割の手続きをする必要があります。そしてこの遺産の分割の協議によって、不動産の所有者が確定した段階で、分割手続によって所有者が確定する前に申告した相続人申告登記の申し出の効果は消滅し、相続登記申請の義務の履行 (遺産分割成立時の追加的義務)が生じます。この「遺産分割成立時の追加的義務」に対する相続人申告登記申し出という仕組みは準備されていないため、遺産の分割の成立した日から3年内に正当な理由がない限り相続登記申請をしなければならないこととなるので、留意が必要です。

多少の考察すべき事象

相続が開始し不動産も相続の対象であったことを知った日から3年内に遺産の分割が成立しそうたが、登記申請は、相続が開始し不動産も相続の対象であったことを知った日から3年を経過する見込みである場合はどう対処すべきか?

この場合、相続が開始し不動産も相続の対象であったことを知った日から3年内に相続人申告登記の申し出をし、その申告登記がされた上で、遺産の分割によって所有者が確定した時点から3年内に登記申請する必要があると考えます。これによって結果的に、申請の時期は、相続が開始し不動産も相続の対象であったことを知った日から3年を超えるが、遺産の分割によって所有者が確定した時点から3年内である期間内に申請することとなるので、過料の制裁は免れる可能性があると言えます。

詳細な情報は今後の法務省民事局の公表に注目

なお正当な理由(のガイドライン)については、現時点で、法務省民事局は公表していないので、今後の公表を待つより他ありません。

ということで、まだ始まって間もない制度ですし、過料の制裁の対象は条文上の抽象的な文言にとどまっていますが、今後、法務省から詳細が公表があるのだろうと思われますが、やはり不動産について取得する相続人が確定しているならば、遅れることなく、登記申請をすべきと考えます。

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依頼した方が良い事案

こんにちは

今回は、前回の「今日の相続手続について」からもう少し掘り下げて 司法書士に相続手続を相談、後方支援を依頼した方が良い場合を取り上げ その訳を記してみたいと思います

先日の記事にも記したとおり

  • 生存配偶者がいない被相続人からみて子のみが複数の相続人であるが 相続人どうしが疎遠である場合の相続手続
  • 被相続人に子がおらず すべての尊属も他界し 兄弟姉妹が相続人である場合(生存配偶者の有無に関わらず)

この二つの事案である場合は 司法書士に手続を相談し 後方支援にあたってもらうことが より手続きが早く進むことが期待できます。

「生存配偶者がいない被相続人からみて子のみが複数の相続人であるが 相続人どうしが疎遠である場合の相続手続」

一つ目の事案ですが 相続人は 被相続人からみて第一順位である子だけなのですが 子供どうしであっても 被相続人の戸籍から婚姻または分籍等の理由で 他の共同相続人の戸籍事項証明書(以下、意味は同じなので、戸籍謄抄本と記します。)を調査する段階で その共同相続人の協力を得て戸籍謄抄本を入手する必要があります 言い換えれば 手続を進めたい相続人であっても 他の相続人の戸籍謄抄本は 独自で入手することが 極めて難しいのです

行政庁の戸籍謄抄本交付の姿勢

先般の規則の改正により 明確な交付の姿勢が明らかになり 基本的に請求者を中心とする上下の世代(本来ならば尊属卑属と記すべきかもしれませんがここでは 感覚的にわかりやすい表現を記しています)に関する戸籍謄抄本は ご自身が住所を置く 市区町村行政庁に出向いて請求すれば 現在は 出向いた先の行政庁が取り揃えて戸籍謄抄本の交付を受けることができます。

この扱いの変更は本当に大きな変更で この改正前は 本籍地の管轄行政庁まで出向くか郵送で請求するわけですが その際に 交通費をかけて現地行政庁まで出向くか 定額小為替振出料を支払い・返信用の封筒と切手代を含めて郵送で手配するしかなかったのです

先にも記しましたが 今回の改正で相続人本人であれば 住所の管轄行政庁まで出向いて請求するだけで 上下の世代の戸籍謄抄本は入手することができるようになったことは 経費面の負担が大きく削減されたと考えることができます

やや脱線しますが 今回の改正からこの交付制度を穿った形で制度を眺めると 相続対象の不動産について固定資産税・都市計画税の徴収に先立ち 行政庁は相続人の調査がしやすくなったことが反射効的に理解できると思います

尊属卑属の戸籍謄抄本の入手

本題に戻りましょう 上のとおり入手までの時間と経費面 そして何と言っても この入手方法に基づく士業の先生が用いる職務上請求手続による戸籍謄抄本の入手はできません
 故に基本的に被相続人の戸籍謄抄本の入手は 余程のことがない限り 基本的にご自身で入手することをお勧めいたします

兄弟姉妹の戸籍謄抄本の入手

被相続人の戸籍謄本については、ご自身で入手をと 先にもシスしましたが 他の相続人たる兄弟姉妹または甥姪にかかる戸籍謄抄本については 行政庁の取り扱いが消極的であるため 事実上入手は困難を極めます そんなときほど 司法書士に依頼されることをおすすめ致します

相続手続の相談を受け付けております
司法書士 大山 真 事務所
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今日(こんにち)の相続手続

こんにちは 日本特有のお盆休み ですね

近頃の相続手続については わざわざ司法書士に手続きを依頼することがだいぶ減ったのかなと感じます

特に 生存配偶者が相続人兼主導権を持っている方がいらっしゃる場合は まず相談さえも来なくなったように感じます

まぁ 事実上の行政主導によって 本人申請の事案が増えているのだろうと感じます

それでも 以下の事案では 相続人自身では 難しい事案なのかなと考えます

  • 生存配偶者がいない被相続人からみて子のみが複数の相続人であるが 相続人どうしが疎遠である場合の相続手続
  • 被相続人に子がおらず すべての尊属も他界し 兄弟姉妹が相続人である場合(生存配偶者の有無に関わらず)

上記の二つの事案は 相続関係を証明する書類を入手することが難しい事案もあるため ぜひご依頼いただければと思います

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住所・氏名が変わったとき

登記上の住所・氏名は現在と同じ?

不動産を取得してから相当の歳月が流れますが、いざ登記簿を確認すると登記したときの住所・氏名のままであることに気がつかれると思います。

「登記上の住所」という言葉

さて電話による問い合わせでよくあることですが、一般の方とよくすれ違うこととして、「登記上の住所」という言葉が出てきた際に、実のところ、よく理解していない事象が見られます。さて「登記上の住所」とは一体なんなのでしょうか。

登記簿上に記された名義人の住所

ズバリ「登記上の住所」とは、登記簿上に記された登記名義人の住所のことを、言っています。

住所変更、氏名変更の登記が必要な事案

よく遭遇する事案として抵当権抹消登記申請時に、登記上の住所氏名について、現在の住所氏名を変更したことによって違っている場合は、別途、所有権登記名義人氏名住所変更の登記申請が必要となります。

実は、義務化されます

ところで、この住所および氏名もしくは名称の変更登記申請も令和8年4月1日より義務化されます。

条文の規定をよく見ると、総則として第64条では、「登記名義人が、単独で申請することができる。」とあるわけですが、新法では、さらに「第七十六条の五 (途中省略)…所有権の登記名義人は、その変更があった日から二年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければならない。」に規定されています。第64条の規定だけをみると、「…申請できる。」とあるので、いつでも良いと考えられますし、記事を記しているときは、改正法施行日前なので、確かにそのとおりですが、令和8年4月1日以降は、所有権の登記名義人については、住所氏名の変更については、登記申請の義務が課されることになります。

ところで、住所氏名の変更をどう調べれば良いのでしょうか?それは、住民票の写し、戸籍の附票、場合によっては住民票の除票、戸籍の除附票でもって調べることができます。

戸籍附票・住民票除票の保存期間

住民票の除票、戸籍の附票の保存義務の期間が、令和1年6月20日より、150年になったため、その施行日以降の住所遷移の情報を遡ることができるといえばできます。もっとも平成25年6月19日よりも前の日付の段階の住民票の除票・戸籍の除附票を既に廃棄してしまった自治体もなくはないので、それ以前に取得した不動産を所有し、登記もされていて、住所の移転を転々と繰り返していた場合は、必要関係書類が揃わない可能性もあり得ます。

必要関係書類が調わないとき

住所氏名の変更登記申請をしようと思っても、必要関係書類が調いそうにないと感じる場合は、当事務所をはじめ、最寄りの司法書士事務所までお尋ねください。資料集めをした上で、法務局に申請をご自身ですることは、負担が過度になり、あまりお勧めできません。なぜなら、住所が、公文書で繋がらない場合は、ご自身が所有者であることの蓋然性を担保するまで資料を収集・添付し、場合によっては、上申書を作成した上で、申請に挑まなければならない事案だからです。

厳格に考えると、住所・氏名の変更登記申請でも、申請に該当する不動産や権利が、申請人たるご自身が真正な所有者権利者であり、その正当なる権利者から出た申請であることを担保することと、住所氏名の変更があったことを証明するために、添付書類が存在意義があります。

終わりに

最後に、取引決済に関連したことを記しますが、住所・氏名の変更登記も連件申請で取り扱いますが、実は順番としてはほぼ一番初めに申請する体制で事件を扱います。その一番目の住所氏名変更登記申請に問題が生じると、残りの全ての抵当権抹消・所有権移転・抵当権設定等の登記申請手続きも頓挫することになり、実は、住所氏名変更の事案はとっても実務では取り扱いは、当事者が想い抱いているよりも、申請代理人は慎重に取り扱っています。それほど登記上の住所氏名の取り扱いは難しいことがわかると思います。

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