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正本と謄本のこと

こんにちは

今回は、少しだけアカデミックなことを記したいと思います。

不動産登記手続きのうち、判決による登記という方法があります。

その「判決による登記」申請をする場合、登記の原因を証明する書面は判決書に他ならないのですが、この判決書は「正本」でなくてはならないと、実務では取り扱われています。

確かにそうだろうと思うのですが、それでは「謄本」というものの役割は何なのだろうか。ふと疑問に思いました。

そこで、学陽書房から出版されている法令用語辞典を参照すると、両方とも掲載されているので、確認する意味で紹介したいと思います。

正本

1)謄本の一種であって、法令の規定に基づき、権限のある者によって、特に正本として作成されるものをいう。「正本」は法令の規定により原本を一定の場所に保存することを要する文書について、その効力を他の場所で発揮させる必要がある場合に、原本と同一の効力を有するものとして作成される。例えば(以下省略)

学陽書房 法令用語辞典 より

一方、謄本について同じ書籍で、確認しました。以下に引用します。

謄本

 文書の「原本」に対する用語であって、原本と同一の文字、符号を用いて原本の内容を完全に写し取った書面をいう。(途中省略)「謄本」のうち、裁判所書記官、市町村長、公証人その他権限ある機関が原本の内容と同一である旨の認証をしたものは、法律の規定によって、「原本」又は「正本」と同様に取り扱われることがある(以下省略)。

学陽書房 法令用語辞典 より

それでは、不動産登記の関係法令を確認すると、不動産登記令第7条第一項第5号ロ(1)にあります。以下にe-Govより引用したものを示します。

 登記原因を証する情報。ただし、次の(1)…に掲げる場合にあっては当該(1)…に定めるものに限るものとし、別表の登記欄に掲げる登記を申請する場合(次の(1)…に掲げる場合を除く。)にあっては同表の添付情報欄に規定するところによる。
(1) 法第六十三条第一項に規定する確定判決による登記を申請するとき 執行力のある確定判決の判決書の正本(執行力のある確定判決と同一の効力を有するものの正本を含む。以下同じ。)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416CO0000000379

不動産登記令第7条第一項第5号ロ(1)の括弧書きをみても、「正本」と記されています。そうすると法令によって「正本」と記されている以上、「正本」が原則であることがよくわかります。

このこと、何故に記したのか、実のところ家庭裁判所の書記官でさえも、あまりよくわかっていらっしゃらないことがあるようです。

家事事件手続法で、調停が終結した際に、当然にその終結したことを証明する書面が交付されるのかというと、実は仕組み上、そうはなってはおらず、改めて申請によって交付を受けなければなりません。

その際に、正本の交付申請をしたにも関わらず、謄本が交付されたという事案があり、その際に担当書記官から「謄本じゃダメなんですか?」という問い合わせがありました。
もしかしたら、ご理解されていないのかなという、懸念を抱きましたが、書面の交付という事務作業なので、裁判事務手続とは、また違った扱いなので、そのようなご発言だっだろうと思います。

離婚に伴う財産分与の手続の相談を承ります
司法書士 大山 真 事務所
TEL: 047-446-3357

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不動産登記の放置と登記引取請求権

 納税の義務を新所有者が回避するため 登記を前所有者のままにする いわゆる登記を留保しているため 前所有者が納税の義務を負うことがあります 前所有者は その不利益を回避するため  現所有者に対して 登記を引き取ってほしい と 登記引取請求権に基づき 所有権移転登記手続訴訟を提起することができます

なんだか不思議なことかもしれません その昔 扱った事例として 遺産分割調停事件を拡張して共有物分割の事案までを遺産分割調停条項に盛り込むこととなり どちらの裁判所かは記しませんが当時の裁判所書記官もあまりよくわかっていなかったようで 原告に「調書に『不動産の所有の帰属および登記手続き不備が生じないようにしたい』から 誰か準備書面に 調停条項の起案となる文言をかけるに司法書士・弁護士先生に対応してもらってください。」と言われたようで その白羽の矢が立ったのが当職でした

原告に調停の状況を聞いたところ 主張すべきことはしている と面談をしてもおっしゃるし 家庭裁判所の書記官もどうしたものかと思いましたが 準備書面の起案を受けることとなりました

そのときに 不動産の共有物(現物)分割の話があり 対応したという次第です
 通常の遺産分割とは違い共有物の分割が入り込むと対立構造があり登記申請手続上 利益を受ける者と不利益を被る者が共同して申請しなければなりません(共同申請主義)

ただし 協議は成立したにもかかわらず 登記申請には協力しないという事態もあります 特に実勢価格ではそれほど価値のない物件について 当事者同士では 所有権の帰属が変わったことに同意しているのに 未だに登記は前所有者のままである そのまま登記を放置すると 所有権を手放したにもかかわらず 納税の義務が発生しかねない事態につながりかねません

もはや所有権がないにもかかわらず 固定資産税の納税義務を追うこと回避するために 登記引取請求権に基づく所有権移転登記を求める 不動産登記に関する訴訟を提起することができます

そして その訴訟で得られた勝訴判決は 登記権利者が関与せずに 登記義務者から一方的に 登記申請をすることができます(判決による登記)

なんだか不思議ですよね 通常なら登記権利者が単独で登記を申請するというのが常なのですが 少し変わった登記申請ということとなります

少し変わった事案ですが 判決による登記の一部を紹介しました

不動産に関する登記の相談を承ります
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ぐるり公園の突端(台場方面)を目指すために散歩をしていたところ こうしてかもめをよく見かけます
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実体が違います 特別受益と遺産の分割手続きのこと、書面のこと

こんにちは 今回のテーマは 相続手続の特別受益と遺産分割のことを対比して 記していこうと思います

まず 特別受益という言葉を持ち出しましたが 一体なんなのかというと 民法にその根拠があります

以下はE-Govの法令検索の民法からの引用です

(特別受益者の相続分)
第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
第九百四条 前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=129AC0000000089#3867

とあります
条文を丸ごと引用してしまったので もしかしたら読みづらいかもしれませんね
では 解説していきましょう

まず民法第903条第一項ですが、

第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=129AC0000000089#3867

とあり、「遺贈を受け、」というのは遺言により、財産を貰い受けたと考えてください
次に「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた」とありますが 結婚や縁組のために被相続人から財産の贈与を受けたり 生計の資本としての贈与は 例えば学校に対する学費を出してもらったなどが考えられます

さて

「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする」

とあるのですが 上記の遺贈や贈与があった場合 その受贈者・受遺者兼相続人は本来の法定相続分から実際に取得する相続分の修正が入ります その計算方法を条文は示しています
その計算方法ですが

実際に付与される相続分=法定相続分ー(遺贈+贈与)の価額

です この計算式によって、得られた結果、ゼロ以下だった場合は ゼロとなります このことを第二項が示しています

第三項は 遺言で以って 被相続人が特別受益を受けた相続人に対して 先の計算式とは違った内容を意思表示した場合は その意思表示に従うこととなります

第四項は 昨今の改正で追加された規定です 生存配偶者の居住のための確保と持戻し免除の推定規定が設けられました

第904条は 持戻しの計算に関することです 財産価値が下がったりまたは無になってしまったとしても 相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなして計算することとなります

ずいぶん前置きが長くなりましたが 遺贈の根拠となる遺言は相手方の無い単独行為と言われています それから贈与は契約として位置付けられ その効果は生前に生じるものもあれば 始期付き すなわち贈与者の死亡でもって生じる贈与もあります
遺贈は、受遺者には、遺贈を受けるのか受けないのか、受遺者自身が独自で意思表示をする機会が与えられていますし、贈与は、諾成片務不要式契約であり 契約そのものはすでに成立しています

そうすると 特別な受益により相続分が相続開始時には存在しない相続人にとっては もはやその事実が存在するだけ となります

次に遺産の分割を見ていきます
遺産の分割は協議によって行われることが大多数であります 事案によっては 協議がまとまらず 家庭裁判所に持ち込まれ 調停や審判または訴訟によって決定や判決によって定まることもありますが それにしても その協議 調停 審判 訴訟による審理結果の判決により 遺産の分割が確定し 法律上の効果として第三者の権利を害する場合を除いて相続開始時に遡ることとなります
すなわち 遺産の分割まで経る筋道は 相続開始後の相続人全員の意思表示に基づいて形成され その分割が成立すると言ってもよいと思います

さて 特別受益のことと遺産の分割のことを個別で見てきましたが もう一度おさらいすると

特別受益は 過去または相続開始時によって遺贈や贈与の効果が既に生じた事実が存在すること
遺産の分割は 相続が開始して 相続人全員の意思表示によって形成され 相続財産の帰属が定まること
です

さて これらの証となる書面の作成について意識すると

特別受益は事実に関する証明をその当事者がすること

遺産の分割は 意思表示をしたことにより相続財産の帰属を相続人全員がすること

となります

さらに相続人の中に未成年者がいた場合は どのような手続が必要でしょうか?

特別受益者である未成年の相続人について その事実に関する証明を自らも相続人でもある親権者がすることがありますが 利益相反は問題とはなりません なぜなら事実に関する証明であって その証明は法律行為では無いからです

一方 遺産の分割について その意思表示は、法律行為として位置付けられるため 相続人でもある親権者が その未成年者のために代わって意思表示をしたとしても 自らと子の利益が相反してしまうため 効力は生じませんので 家庭裁判所で その未成年者に対する特別代理人を選任してもらう必要があります

未成年者である相続人への対応

特別受益遺産分割
利益相反に該当?
しないする
家庭裁判所の特別代理人の選任の要否不要必要

相続の手続きについて 特別受益があった場合と遺産の分割のことを対比して見てきました

おそらく依頼者にとって一番気になること それは費用のことだと思います
相続手続について 未成年者とその未成年者の親権を行使する生存配偶者が共同相続人である場合

特別受益がある場合、その証明について家庭裁判所の関与が不要であり、証明する書類も未成年者の親権を行使する相続人から その事実について証明することで足ります もし未成年者自身について 印鑑証明書の発給が受けられるのであれば 未成年者自身がその登録印で押印した証明書でも有効なものとして扱われます

一方、遺産の分割協議が必要である場合は 未成年者一人一人個別に特別代理人を家庭裁判所が選任する必要があります
また選任してもらって好きに協議すれば その結果が反映できるのかと言えば そうではなく 選任の審判をするにあたり 遺産分割協議案を家庭裁判所に提出する必要があります
適切に 不公平なく分割されるように謂わば 家庭裁判所が後見監督していると言っても過言ではありません

最も 上記に記したことは それらの手続きは選択的なことではなく あくまで実体上の前提も含めた事実の存在があって導かれた上で存在するものです
同業者のwebページを見ていると 時折 費用のことを意識されて その稚拙な内容を記したページが散見されますが 実体が存在しなけければ その手続きを用いることもできないと考えるべきです ありもしない事実(不実)について に書き留め証明をしようとしたところで それは事実が存在しない以上 無効なものであり 場合によっては有印私文書偽造罪 登記が実行されてしまった場合は 公正証書原本不実記載罪 という刑法上の罪に問われることあり得ます
また 特別受益があったということは その反射光的に税金のことも意識をすべき場合もあるのかもしれません 特に贈与税についてです

ここまで ご覧になっていただいてありがとうございます
よくよく 事実を確認した上で 適切な手続きをしていただけたらと思います

相続に関する相談を承ります
司法書士 大山 真 事務所
TEL: 047-446-3357

夜の東京駅でした 星もよく見えてました たまには こんな秋の夜もいいかなと思います
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合同会社の登記事項(動画)

おはようございます

合同会社の設立登記新生児の登記事項の解説動画を公開しました。
少し込み入ったことを話しをしていますが 合同会社の設立後どのような事項が 公示の対象となるのかという観点でご覧になってみても良いと思います

合同会社の登記事項
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業務委託とフリーランス

こんばんは

今回は 業務委託とフリーランスについて 記したいと思います
 結論は 同じような業務形態かなと思います 雇用という関係が存在していたら それはフリーランスではないし 業務を委託されてご自身の責任のもとで業務を遂行し仕事を完成させて報酬を得るという請負に近いこともあれば 結果が希望に沿うような形にならないかもしれないが事務処理をしたことによる報酬が発生すれば委任に近いこともあります

定義からすると この「業務委託」契約というものは なかなか請負なのか委任なのか 個々の事案を見て判断することとなります

フリーランスは自由業なので 業務の目的が定まっていれば そのプロセス(手段)は 相手方の指揮監督下にはおかれずに 一定以上の結果を求められることとなります 請負に準ずる業務委託内容であればその一定以上の結果が出せなければ 最悪な場合報酬は仕事が完成していないのだから支払われないこととなります 一方 委任契約はどうなのか 例えば 司法書士が登記の申請について委任による代理として振る舞うことが多いのですが この委任については その事務に対する奏功はなかったとしても 報酬を支払う義務が発生します もっとも委任による代理ということであれば 代理に関する規定と民法の委任そして 当事者間でどう取り決めたのか その取り決めた事項について 信義則、強行規定、公序良俗に関して問題がなかったのか等が 主な争点をなるだろうと思われます

身近な法律問題についての相談を承ります
司法書士 大山 真 事務所
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